ボケとツッコミの心理学
一心塾だより第97号
年末年始、テレビには芸人さんがたくさん登場してきます。あの人達の話術にはいつも舌を巻きます。いわゆるボケとツッコミの応酬ですが、それでコミュニケーション上手になれるなら、ちょっと心理学的に研究してみるのもおもしろいと思います。
例えばAさんがちょっと不思議なファッションをしていて、Bさんが「変わったカッコだねえ」とツッコミを入れたとします。ここでAさんが「これ着るとね、10歳若返るのよ」などとボケればその後も、B「確かにねえ。後は顔だね」、A「それ言わんで」などと会話が続き、お互い親近感が湧きます。
でも、もしBさんのツッコミに対しAさんがボケてくれなかったら、Bさんはただの口の悪い嫌な人になってしまいかねません。だからボケてくれる人でないと安心してツッコめません。
ここでハタと2年前から習っている柔術のことを思い出しました。まず受け身を身に付けないと怪我をしますから技の練習に入れないのです。つまり、ボケの練習をしておかないと、相手もツッコミという“技”を掛けにくいということです。
Aさんはまず不思議なファッションを身に着けて来たのですが、最初からAさんは誰かにツッコまれることを密かに期待していて、ツッコまれたら「10歳若返る」とボケることをイメージトレーニングしていたのかもしれません。人のツッコミを誘うボケの技です。
ところで、Bさんは普段からつい思ったことを口にしてしまうツッコミ屋で、家族から煙たがられているのですが、どうしても言わずにいられません。でも最近は家族がボケを取りやすいように初級のツッコミを心がけています。
以前は「なんで洗濯物を自分の部屋に片付けることもできんの!」と怒っては子どもから無視されていました。ツッコミが強すぎるわけです。しかし先日、「洗濯物に足が生えてあんたの部屋に歩いってくれたらいいけどね」とツッコミを工夫してみたら、子どもが洗濯物に足が生えたようなカッコで部屋にとぼとぼ持っていくというボケをやってくれました。Bさんはすかさず「80歳のサルだ」とさらにツッコむと、子どもはスキップで洗濯物とともに部屋に消えていきました。ツッコミの中に「こうボケればいいのよ」というヒントを忍ばせたわけです。
こうしてみるとツッコミとは人の行動を変化させ得る高度な技です。「他人を変えることはできない」とよく言われますが、ツッコミはその定説を覆す可能性があると思います。そしてボケは人間味で人を和ませます。私たちは煩悩だらけ、ダメなとこだらけなのですが、ボケとはそれを肯定的に捉える落語的なマインドだと思います。工夫の効いたツッコミは人をボケに誘い、瞬間的に煩悩から人間味(=笑い)へと昇華させてくれます。
ただ、私にそれができるかというと残念ながら全くできません。新年の目標にします。「初級ツッコミ講座」とか「ツッコミがトラウマにならないための受け身的ボケ講座」とかあれば受講したいものです。