多様性を受け入れる寛容さ

一心塾だより第102号
朝ドラ「あんぱん」のヒロイン朝田のぶは「愛国の鑑(かがみ)」と称えられる尋常小学校の新米教師です。この先生に子どもたちが「早く兵隊になって、お国のために奉公したいです」と口々に訴えるのですが、その言葉を聞くと鳥肌が立ちました。
周囲の期待や時代の空気を敏感に感じ取って自分のモチベーションにしてしまう、そして善悪、強弱などの単純な価値観に染まってしまう、それが子どもなのだと強く印象付けられたのです。白い布が濃い色に染まり、容易に色が抜けなくなる、そんなイメージが湧きました。
ご存知のように、敗戦によって価値観が180度転換し、子どもたちはどれだけ翻弄されたことでしょう。それからしばらくすると高度経済成長の時代に入り、子どもたちは勉強して、上の学校に行って、いい就職をするという価値観を刷り込まれていきました。ただ、そのような国全体を席巻するような外的な価値観に染められていたから、私たちは目標を持てていたのかもしれません。
今、「失われた30年」と言われるような低成長の時代に加えて、コロナによってほとんどリアルでの出会いや活動を禁じられた後、子どもたちを染めるのはゲームであり、Youtube、TikTokなどの動画であり、アニメであり、“推し”であるという状況です。学校に通って面白くない勉強をして、馴染めない級友たちと交わることに価値を見いだせないのも仕方ないことのような気がします。多様な価値観が混在する中で、同じような価値観を持つ友人を見つけることが難しいのです。不登校が増え続けるのもそんな理由からではないでしょうか。
私たちは今後どんな価値観を見出していくべきなのでしょうか。そして子どもたちもそれに染まってもらいたいような価値観とはどのようなものなのでしょうか。

一つ思い浮かぶのは、多様性を受け入れるという価値観です。学校へ行こうが行くまいが、仕事しようがしまいが、結婚しようがしまいが、個人の生き方のスタイルは尊重されるということです。日本にもそんな考え方は一部で根付きつつあると思います。
それは無関心であることとは違うと思います。関心を持って受け入れるとき、もしかしたら自分の生き方に自信を持てないでいた人も、そのように受け入れられることで、発展的に変化していくのです。しかし、その生き方を受け入れようにもどうにも違和感があるときは、それも素直に表明するのが親切というものです。もちろん伝え方には十分な配慮をしたほうが良いですが。
そのように他者に対する関心と率直さを持つとき、自分の内側にも多様性を受け入れる寛容さが育ちます。
そのような寛容さは、これまでの外的な価値観に染まっていた心を洗い流し、何にも染まらない、自律した心を育むでしょう。そして、その心自体が自然に自己の心の拠り所になっていくのではないでしょうか。