失敗は簡単そうに見える場所でこそ起こる

5月号

この原稿は病院のベッドの上で書いています。不覚にも家の階段を踏み外して右足首付近を骨折し、約1か月の入院となった次第です。
長年人にヨガを教えていて、階段を昇り降りするときは、一歩一歩の足の動きに集中することを常々お伝えしていました。そういう方法を「マインドフルネス」といいます。お釈迦様が最も重視していらっしゃった修行法です。
実は2,3の事柄を同時に実行しているときのほうが脳は快感を覚えるのだそうです。脳は効率重視なのですね。でもそうした脳の傾向にときに逆らって、一つのことに集中する練習をすると脳の別な面が拓けてきて、精神が成長する感じになります。
私のこの度の踏み外しは、階段の一番下の段でした。それまで慎重に降りていたのに、最後のところで気を抜いたのだと思います。

そういえば高校生のときに古典で「高名の木登り」(徒然草 第109段)の話を習ったとことを思い出しました。木登り名人が弟子の木登りを見ていて、難しそうなところでは何も言わず、あと一歩で地面というところで「気をつけなさい」と声をかけたという話です。弟子が「あとはもう飛び降りても平気ではないか」と問うと、「危ない場所では本人が慎重になっているのであえて言わない。失敗は簡単そうに見える場所でこそ起こるものだ」と名人は答えたそうです。
耳が痛い話です。マインドフルネスは最後まできっちりやらないといけませんね。身を持って知りました。
生活のいろいろな場面でマインドフルネスの練習ができます。靴やスリッパはしっかり意識しながら履き、脱ぐときはきちんと揃えます。これは集中する時間が短いので初歩のマインドフルネスといえます。
掃除は本格的なマインドフルネス修行としてお寺の修行(作務)にも取り入れられています。料理は一度にいろいろなことを同時にやる必要がありますが、意識は常に今に集中しているので、高度なマインドフルネスでしょう。
人生初入院なのですが、本格的なマインドフルネス修行をしなさいということなのかもしれませんね。幸いこの上なく暇なので、車イス移動、食事、歯磨き、排泄などすべての動作をゆっくり丁寧に、感覚を味わいながら行うように心がけているところです。
