水は方円の器にしたがう

一心塾だより 第107号より
「水は方円の器に随う」という言葉は宮本武蔵の『五輪書』「水の巻」に出てくることで有名です。「水は四角い器に入れれば四角くなり、丸い器に入れれば丸くなる」という意味で、つまり状況に応じて臨機応変であれ。囚われてはならないという教えです。元は中国のことわざのようです。
「水」は心と考えてください。そして「器」は文化や生活習慣、そして今向き合っている状況です。私たちの心は文化や生活習慣の形にしたがいます。だから、しばらく外国に住むとカルチャーショックを受けて、そのうちに心が変化します。今向き合っている状況に対し、心が頑なで、水のようでないなら、うまく状況に対応できません。

心が頑なな状態を“氷”とイメージしてみてください。固くてゴツゴツした状態です。どうしたらこの氷を溶かすことができるでしょうか?
一つには温めること。二つには水の中に入れることです。温かい人間関係の中で心の氷は溶けていきます。また、心の中で水の部分が多ければ、氷ができたとしてもやがて水になります。
生活の中で、われ知らず、水の一部が氷になってしまっていることはあるものです。そのときは何となく心が不自由な感じになっています。同じ感情や同じ考えが繰り返しやってくる状態ですから注意深くあれば気がつくと思います。
“気がつく”ということは、心が水であるときに発揮される力です。その力で氷を溶かすことができます。マインドフルネスの練習は、ですから、心が水の状態を維持するために、そして氷になってしまった心を水に戻すためにとても重要な練習です。
さて、筋肉と心はよく似ています。筋肉が柔軟なときは“水”のようです。凝っているときは“氷”のようです。筋肉が“氷”になることで姿勢も固まります。ある作業をするときに筋肉の力が足りないと、氷になることで、骨の代わりのように姿勢を維持しようとするのです。例えば、ずっと同じ姿勢でデスクワークをしていると、首の筋肉が固まることで姿勢を支えようとするのです。しかし凝りは辛いものです。一つには筋肉を適度に動かし、鍛えること。二つにはストレッチとリラックスが筋肉の柔軟さを養います。
もう一回心に戻りましょう。心も適度に動かし鍛え、またストレッチすると水の状態を維持しやすいかもしれません。それはつまりどういうことでしょうか?
いろいろな出会いをする、いろいろな経験をして揉まれる、ときには辛い思いをする、そして定期的にリラックスする。そういうことが前述の「温かい人間関係」、「マインドフルネス」と併せ、心が凍ってしまうことを防ぐのではないでしょうか。
どうか、心と筋肉をいつまでも水のようにしなやかでいさせてあげてください。
