水は方円の器に随う

「水は方円の器に随う」という言葉は宮本武蔵の『五輪書』「水の巻」に出てくることで有名です。「水は四角い器に入れれば四角くなり、丸い器に入れれば丸くなる」という意味で、つまり状況に応じて臨機応変であれ。囚われてはならないという教えです。元は中国のことわざのようです。

 「水」は心と考えてください。そして「器」は文化や生活習慣です。私たちの心は文化や生活習慣の形にしたがいます。だから、しばらく外国に住むとカルチャーショックを受けて、そのうちに心が変化します。外国に住むまでしなくても、新しい友人ができるだけでも心は形を変え始めます。もし頑なに心を変えないなら、その友人とはうまく付き合えないでしょう。

 心が頑なな状態を“氷”とイメージしてみてください。固くてゴツゴツした状態です。どうしたらこの氷を溶かすことができるでしょうか?

 一つには温めること。二つには水の中に入れることです。温かい人間関係の中で心の氷は溶けていきます。また、心の中で水の部分が多ければ、氷ができたとしてもやがて水になります。

 生活の中で、知らず知らず、水の一部が氷になってしまうことはあるものです。そのときは何となく心が不自由な感じになっています。同じ感情や同じ考えが繰り返しやってくる状態ですから注意深くあれば気がつくと思います。“気がつく”ということは、心が水であるときに発揮される力です。その力で氷を溶かすことができます。マインドフルネスの練習は、ですから、心が水の状態を維持するために、そして氷になってしまった心を水に戻すためにとても重要な練習です。