関係を見直すフォーカシング

一心塾だより 第91号

 私たちは様々なことと関係を持ちながら生きています。人間関係はもちろん、身の回りのモノとの関係、現在関わっている状況や環境、そして世界、また自分自身との関係もあります。大半は無意識的で自動的な関係になっているはずです。そうでなければ頭が忙しくなりすぎてしまいます。

 無数にある関係の、とりあえず一つを取り上げて、それについて良い関係になっているだろうかと吟味することを「関係性フォーカシング」と名付けてみました。フォーカシングとは「フォーカス(焦点)を当てること」です。

 例えばAさんは、毎日のように料理で使っているフライパンを取り上げました。もう10年は使っています。そんなに安物ではありません。たぶん1000回以上炒め物を作ってきました。いい感じで材料全体に熱が伝わります。ちょっと取り扱うのに重いかなとは感じますが、腕力を衰えさせない要因になっているかもしれません。一応ちゃんと手入れしてますからサビや汚れはあまりありません。このフライパンのことをフォーカシングすると、愛しい感じがして、この先もずっと使い続けたいと思うと、「お世話になってます。ありがとう」という言葉が自然に出てきました。

 Bさんは片頭痛という長年付き合っている症状との関係を取り上げました。薬も処方されているけど、効き目を弱く感じて、処方箋より多めに飲んでしまいます。この症状との関係は薬との関係でもあるなと気づきます。改めてこの症状のことを感じてみると、「症状に捕らわれている自分」を感じます。症状に支配されて、自分はその下僕のようだと気づきました。そして、少なくとも対等な関係になりたいと思いました。

 Cさんは仕事の同僚Dのことを取り上げました。協調性の乏しい人で、あまりいい関係ではないと言います。「仕事では協調性が不可欠であるのにあいつは・・・」という“いつもの考え”が出てきます。でもフォーカシングでは“いつもの考え”はちょっと脇に置いておいておきます。そしてDの立場に立ったとき、DはCさんのことをどう思っているのだろうと想像してみました。「とろい奴」という思いが浮かびました。そしてCさんは、自分がDの協力を当てにしていただけなのかもしれないと気づきました。

 良い関係が取れている対象には、Aさんのように感謝の念が湧いてきます。ある対象を思い浮かべたときに、感謝とは言い難いのであれば、その対象との関係は改善の余地があります。Cさんの例のように、“いつもの考え”は関係改善の妨げになることがあります。実はこの“いつもの考え”も付き合うべき対象なのです。

 このように様々なものを対象化することで、それとの関係を見直すことができるようになります。それは気の長い作業ではありますが、一つ一つの関係を見直していけば、必ず今よりも感謝が増えますし、感謝が増えれば必ず幸福感も増してきます。