気持ちをつぶやこう

一心塾だより 第9号

 誰でも家族や知人の中に、こちらの気持ちによく気づいてくれる人、気づいてくれにくい人をそれぞれ何人かずつは思い浮かべることができるでしょう。日本には察する力を尊ぶ文化があるので、気持ちによく気づける人は良い人に見られ、そうでない人には厳しい目線が送られることになります。逆にそんな文化の中で育った私たちは自分の気持ちを意識化することも表現することも得意ではありません。
 他者の気持ちに気づきにくい人は、目をつむって人間関係という森を歩くような感覚を常に感じているのかもしれません。ある人は木にぶつかることに怯え、ある人は気にせず木をなぎ倒しながら進むことでしょう。前者は人を怖がり、後者は人を怖がらせます。そうした気持ちに気づきにくい人たちのために、すべての人は自分の気持ちを意識化し、表現する努力をしていく必要があるのではないかと、私は考えるようになりました。見えにくい人のために森の木々が自ら「ここにこういう気持ちがここにありますよ」と声を発するのです。そうすればぶつかられることも、怖がられることも減るのではないでしょうか。
 でもこれだけフォーカシングを練習してきた私自身、日常会話で気持ちを伝えることは容易ではありません。でもフォーカサーの新しい訓練としてこれは努力していこうと思います。ちょっとアサーション・トレーニング的な感じでもあります。自分の気持ちを表現するだけでなく、会話の中に出てきた人やドラマの登場人物の気持を想像して「あの人は・・・な気持ちなんだろうね」なんていう会話も素敵だと思います。
 気持ちの表現が難しいのは文化以外にも理由があると思います。気持ちが感情まで強まれば、「嬉しい」「腹立つ」と言えるでしょうが、そこまでの強さがなければ「びみょー」としか咄嗟には言えないでしょう。そこをフォーカサーなら「なんかモヤモヤする感じ」とか言えそうです。しかし私などもそうですが、会話の中では頭が先に働いて「こうしたらいいじゃん」と解決策を言ってしまいます。そこからは議論の世界、左脳の領域に入っていきます。何か言う前に感じを確認する癖をつける必要がありそうです。

一心塾だより

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