「嘘をつかない」の戒
一心塾だより 第79号
ヨーガの戒(かい)に「嘘をつかない」というのがあります。仏教にも「不妄語戒」という同じような戒があります。また同じく仏教の八正道の一つに「正語」というのがあります。これらは皆、正しく語りなさい、ということを意味しています。
昔から私たちは偽の情報に流され、踊らされてきました。それは略奪や暴動、政治的分断、そして戦争まで引き起こします。最近では悪意のあるネットの書き込みに多くの人が傷ついています。そして詐欺電話による被害額も年々増加しています。人の関心を引くために嘘を含んだ言葉が安易に発せられ、人々の間で面白半分に、あるいは不安にかられて増幅され、人の心を乱していきます。こうした現象を思うと「嘘をつかない」の戒は非常に重要であり、そして深くこれについて考えていく必要があると思います。
偽の情報、あるいは悪意や不安から発せられた情報に接するとき、私たちのからだは恐らく何らかの違和感を覚えています。しかし、脳が興奮状態になってしまっていると、からだの感じに気づくまもなく反射的に反応してしまうものです。反応する前に少し立ち止まってからだの感じに問い合わせることを習慣づけるべきです。
自分が何かを話そうとするときは、話し出す前に少しからだを感じてみることをお勧めします。今から話そうとする内容にからだはOKを出しているのでしょうか。興奮のままに話し出せば、笑いを取ったり儲かったりするかも知れませんが、誰かを傷つけたり、ひどく後悔することになるかも知れません。
からだは自然そのものですから、その正直さは疑うべくもありません。気持ちに正直なことを言えば、からだは満足しますし、少しズレたことを言えば、そわそわしてしまいます。からだは場の雰囲気に対しても正直であり、緊張する場では当然緊張していますから、そういうときの正直な言葉というのは「緊張してます」で良いでしょう。しかしそれを一言述べるだけで幾分緊張がほぐれてくるのが不思議なところで、「そう言ったら、少し楽になりました」とまた正直に言うことができます。
事実を伝えることで相手がパニックに陥るなどよくない結果を招くと予想されることがあります。こういう場面でも、やはりからだに尋ねます。もしかしたらからだは嘘を伝えることを望むかも知れませんし、「あなたのキャラクターなら事実を伝えたほうが良い」と望むかも知れません。または「関係者の意見を聞こう」と望むかも知れません。何れにせよ、からだに尋ねるというワンステップを入れることが肝心なのです。そのように習慣づけられている人は、フェイクニュースにも、詐欺電話にも引っかからないことでしょう。
今、チャットGPTが大きな話題になっています。これが導き出す「回答」はびっくりするほどもっともらしくて飛びつきたくなるのですが、嘘が含まれている場合があり、また誰かの著作権を侵害している可能性があります。ヨーガの別の戒に「盗んではいけない」というのもありますので、チャットGPTの回答を吹聴したりすることは現状では2つの戒に背くことになりそうです。