フォーカシングの手順

6ステップ

 フォーカシングの創始者ユージン・ジェンドリンの『フォーカシング』(福村出版)には、フォーカシングの手順としていわゆる「6ステップ」が紹介されています。

①空間を作る(クリアリング・ア・スペース=CAS):いろいろ気がかりなことをとりあえず棚卸しするように、目の前に並べてみる。

②気がかりなことに対するフェルトセンス:気がかりなことの中から一つを選んで、それに関する特有のからだの感じ(フェルトセンス)が生じるのを待つ。

③フェルトセンスにハンドルを見つける:そのフェルトセンスがどんなものなのか、わかりやすいように形容する。例えば「黒びかりする大きい塊」、「寂しい感じ」など。

④ハンドルとフェルトセンスを共鳴させる:そのハンドルが本当にそのフェルトセンスを形容するのにピッタリかどうか突き合わせ、よく吟味し、本当にピッタリする形容に変えていく。

⑤尋ねる:フェルトセンスは何を自分に伝えようとしているのか、尋ねる。

⑥受け取る:からだが自分に伝えてきたことを、ありがたく受け取る。

 長年フォーカシングに馴染んできた者にとって、こうして改めて6ステップを見てみると、とても自然な流れになっていることを再確認できます。これはジェンドリンが定めたものというより、フォーカシングのプロセスはこのようになるものと捉えたほうが良さそうです。

 ただ、この6ステップを暗記して、リスナー役になったときにこれを思い出しながら使おうとすると、失敗します。話し手(フォーカサー)に寄り添いながら聴いていたら、自然にこの流れになっていた、ということであればOKです。そのためには何度も何度もフォーカサー、リスナー体験を積み、からだにこの流れを染み込ませることが肝要でしょう。

フェルトセンスが掴めない場合の聴き方

 フォーカシングの良さであり、他のカウンセリングの様子と決定的に違うのは、事柄に深入りしないということでしょう。事柄に深入りすれば、思考がぐるぐる回り始めたり、感情に巻き込まれていったりします。あくまで注目の対象はフェルトセンスであり、フェルトセンスと自分自身がお互いを許し合える、空気のような存在でいられるようになることが、フォーカシングの目指すところと言えます。

 しかし、フェルトセンスは、初心者にとってはなかなか掴みにくいものです。掴みにくさから、フォーカシングに対して興味を失ってしまうこともしばしばです。「私にはフォーカシングは向いていないと思う」と言われる方もよくいらっしゃいます。

 そういう場合、フェルトセンスに気づいてもらうことにこだわるのは、返ってフォーカシングの妨げになると、私は考えています。リスナーの方で相手のフェルトセンスに気づいていればよいのです。それは何となく伝わってきます。それによって相づちのうち方や質問が、自然に相手をフォーカシングのプロセスに導くものになっていきます。

 そのような聴き方をすることで、フォーカサーは何かを語る毎に、その語りが自分の感覚にフィットしていたかどうかを自然と確かめるようになります。所々の沈黙がその瞬間です。そして次第に、一番語りたかったことの核心にたどり着きます。このプロセスは6ステップの④に相当します。

 ここで初めて、フォーカサーがフェルトセンスに気づくことがあります。核心にたどり着いたときに、葛藤を抱えていたことにはっきり気づいたり、焦点を当てるべき問題が浮き上がってきたりして、焦点が絞られることで、からだの感覚がはっきり感じられるようになった、ということがあるからです。そこからステップ②に戻ると、わりと順調にその後のステップに入れます。もちろん、核心にたどり着けてすっきりしたからもう OK、ということもあります。

 つまり、ステップ①に、CASという入り方もあれば、普通にカウンセリングのように話を聴いていくという入り方もあるということです。後者のほうが流れが自然で、技法ぽくないと言えます。

CASとマインドフルネス

 CASは、どちらかと言えばマインドフルネスに似ています。瞑想的に、からだの状態に気づいたり、頭に浮かんでくるものに気づいたりするわけですから。これはこれで、フォーカシングと切り離して、一つのセルフケアの技法と考えても良いでしょう。また、フォーカシングの準備段階として捉えることも可能です。つまり、気になることに距離をおいていくことで、感情や批判を伴わず、純粋に観察するだけの視点または存在に近づくことができます。そういう存在を「プレゼンス」とか「ビッグセルフ」と呼んだりします。

 プレゼンスは、リスナーの態度として常に保つ必要があります。そしてフォーカサーも、フォーカシングを体験する中で、徐々にプレゼンスが育って行きます。それによってリスナーとしての基礎ができ、またセルフフォーカシングが可能になります。

 プレゼンスを育てることは、仏教的にも修行の一大事です。日々マインドフルネスを修練し、さまざまな感情や比べる心、先入観、などいわゆる煩悩を見切っていきます。それによって少しずつ純粋な観察が可能になってきます。フォーカシングのステップ②以降のプロセスは、この仏教的な修行を大いに加速し、リスナーが介在することで誰にでも可能な修行体系にすることに成功したと、私は考えています。