体験的傾聴

一心塾だより 第14号

 フォーカシングは、私たちが自らの感覚を羅針盤として物事に対処したり、生き方を決めることができるようになるための、この上なく重要な技術と知恵です。その習得に際して確実に掴み、意識化できるようにしなければならないのが、「今この瞬間のリアルな体験」です。
 例えば、誰かに思いがけず親切にしてもらったときに、その人はおそらく「心のぬくもり」をリアル体験していることでしょう。フォーカシングを習得しようとする人は、自らのリアル体験に常に気づいている(マインドフルネス!)よう心がけるべきですし、また誰かのリアル体験を自分のことのように感じられるよう練習する必要があります。
 その練習とは、「伝え返し」であり「まとめの伝え返し」であり、どんなリアル体験であるか明らかにするための「質問」です。また自分のリアル体験を感想として伝える(「感想のギフト」)ことで、相手のリアル体験が揺さぶられ、よりはっきりと感じ取れるリアル体験となることもあります。そのような技を使いながら、相手のリアル体験を理解していくことが「体験的傾聴」です。リアル体験は自分で気づくだけで少し変化しますが、他者に理解されると大きく変化(シフト)していきます。それがフォーカシングの醍醐味と言えるでしょう。とくにフォーカシング・サンガでは参加者全員が一人の語り手のことを理解していきますので、より変化が大きいのです。
 相手のリアル体験を自分のことのように感じられるのは、実は生き物としての私たちに備わった直感があるからです。ですから実は言葉を介さなくても瞬間的に理解可能なのです。しかしその正確さを高め、また相手のシフトを促すために伝え返しや質問は重要です。そのような練習をすることで、私たちの直感は更に鍛えられていきます。
 直感が鍛えられるとは、自分の中にヘドロのように溜まり、こびりついている価値観、概念、思い込み、自信のなさ、傲慢さ、居座っている感情などがきれいに掃除されるということです。実はそのことがフォーカシングを練習する最も大事な意味なのかもしれません。