フォーカサー・アズ・ティーチャー

一心塾だより 第33号

 フォーカサー・アズ・ティーチャー(FAT)というのは、ペアでフォーカシングする際に、フォーカサー(語り手)がリスナーの聴き方に任せきりになるのではなく、「こんな風な聴き方をして欲しい」という要望を随時出しながら、自らのフォーカシングに没頭する方法です。
 フォーカシングを身につける上でとても強力な練習方法と言えますが、やろうとしても、日本人にとってはとりわけ難しく感じられかも知れません。自己表明するより、相手のやり方に委ねる姿勢を取るのが、日本人の文化として染み付いている甘えの構造なのですから。
 リスナーがよほど察する力があり、語り手を丸ごと包み込むほどの聴き方ができるのなら、語り手も甘えていられますし、その方が自己に没頭できます。しかしリスナーが初心者であれば、語り手が依存しているだけではフォーカシングは進みにくいのです。またFATによって語り手がリスナーに要望を出すことで、リスナーも成長できます。
 少し言い方を変えると、FATができるとは、甘えを自覚できるということです。
 「良い甘え」と「悪い甘え」があります。甘えの自覚があるかどうかがその分岐点です。良い甘えとは、自分が誰にどういう部分について甘えざるを得ないのかを自覚して、感謝しつつ、よりよく甘えられるようにわがままを言わせてもらうことです。FATはまさに良い甘えの練習です。悪い甘えは、誰に何を甘えているのか自覚がないので、感謝もできないし、きちんとした要求をすることもできません。うまく甘えが満たされないので、不満が多くなります。また悪い甘えの一種である「甘え下手」は「迷惑を掛けたくない」という思いに囚われ、孤独へと向かいがちです。不満は少ないのですが、幸福感は得にくいでしょう。
 ということで、フォーカシング・サンガではFATに力を入れていきたいと思います。そのため「フォーカサー心得」として、次の4枚のカードを用意します。①リスナーの聴き方に細かく注文する。②事情の説明は短く。③内的感覚の表現に自分で切り替える。③言いたいことの核心に自分で到達する。
 ①がFATの基本ですが、自立したフォーカサーであるために②③④の心がけも重要です。これによって、すでに活用している3つの「リスナー心得」の①「居るだけでいい」が、リアルな体験となってきます。

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