ヨーガの禁戒

一心塾だより 第88号

 ヨーガの聖者パタンジャリが著したとされる『ヨーガ・スートラ』という有名な経典があります。難解ですが、いろいろ解説本も発行されています。ちなみに私がインドで修行させていただいた先は「パタンジャリ・ヨーガ・インスティチュート」というところでしたので、私のグル(導師)もヨーガ・スートラのことはよく語っていらっしゃいました。
 よく知られているのはヨーガ修行のための八支則(アシュタンガ)で、その第一則が「禁戒(ヤマ)」です。ヨーガを志す者はまず次の5つのことを心に留め、守るよう努力しなければならないとされますが、ヨーガ修行者でなくても、ヤマを心に留める人は苦しみの少ない人生になりますので、ぜひ実践していただきたいと思います。

R.ムスターフィ導師

1.非暴力(アヒムサ)

 身体的な暴力、言葉の暴力はもちろん禁止です。そして暴力的な思考もやめるように努力します。暴力的な思考をしていれば、言葉にその思いが滲み出てしまいます。ヨーガ・スートラに「非暴力に徹したならば、その人のそばで全てのものが敵意を捨てる」(Ⅱ-35)とあるように、この禁戒を守ることは平和な生活の第一歩です。
 どうしても暴力的な思考をやめられないのであれば、どこかに被害感情があるのだと思います。一心塾だより第75号に、その場合の対応を書きましたので、ご参照ください。
 また、決して暴力的な思いがあるわけではないのに、配慮の無さから相手を傷つけることがあります。そういうこともできるだけ減らしていくよう努力するべきでしょう。

2.正直(サッチャ)

 あまり言いたくないことを聞かれて、つい嘘をついてしまうことがありますが、そういうことも後でめんどうな事態を引き起こしてしまいます。言いたくないときは、言葉を濁すほうが態度としては正直でしょう。相手に対してというよりも、自分の心に正直であろうとするのがこの戒の努力ポイントと言えます。「正直の戒に徹したなら、その人の言葉はその通りに実現する」(Ⅱ-36)。

3.不盗(アステア)

 公平であるべきところを、ちょっと自分の得になるように計らいたくなる気持ちが起こったとき、この戒を思い出してください。この戒を守ることで信頼を得ます。

4.禁欲(ブラフマチャリヤ)

 常識の範囲で考えたら良いと思います。

5.不貪(アパリグラハ)

 捨てられないものがあったとしても、もしそれがないならどう暮らして行こうかと、ときどき考えてみたら良いと思います。何かを手放すたびに心は軽くなるものです。