生きづらさを生きる

一心塾だより第89号

 第47回創作テレビドラマ大賞受賞の「ケの日のケケケ」がとても良かったので、少しご紹介しましょう。
 主人公あまねは感覚過敏で、生活全般にふつうの人には理解しがたい辛さを感じる女子高生です。たとえば学校の休み時間のガヤガヤは、彼女にとっては体中を針で刺されるような刺激であり、イヤーマフと呼ばれるヘッドホンを装着しています。日光も彼女には辛いのでサングラスが手放せません。そして肉を食べることができません。味覚も過敏なのです。

番組HPより

 父親はそんな彼女を“治そう”として、あの手この手で肉を食べさせようとしたりしましたが、吐き出してしまうわが子に耐えられず、離婚して家を出てしまいました。
 全員が部活動に入部しなければならないというルールの学校で、彼女は耐えられそうな部がないことから、「何もしなくても良い部」を新たに作ろうとして物語が展開していきます。こんな障害を持っていても、毎日をごきげんに「ケケケ」と笑っていられることを目指すあまねのポリシーが、ドラマのタイトルになっています。
 何かの感覚が過敏であっても、本人にとってはそれが幼い頃からの“当たり前”であって、その感覚によってその人の世界が構成されていきます。ふつうの感覚を持つ人にとっては、感覚過敏の人の世界は全く想像しがたいものでしょう。だから「この子はわがままを言っているだけだ」と断定的に関わろうとしてしまいます。あまねはそうした大人や級友たちと健気に渡り合います。
 ただ、スクールカウンセラーとして私が学校で出会う感覚過敏の子どもたちは、ASD(自閉症スペクトラム)という症状を併せ持っていることが多いようです。つまり人間関係にも過敏で、人付き合いが苦痛なのです。
 ふつう「感覚」というと五感を思い浮かべますが、人間は他にもたくさんの感覚を持っています。運動感覚もそうですし、「あの人は〇〇のセンスがいいね」というときの◯◯に当てはまるものは全て感覚です。「ファッション」、「人間関係」、「語学」など何でも当てはまります。
 過敏と敏感は違います。複数の刺激(A、B、C、D、E)がある中で、Bだけを選択的に選り分けられるのは「敏感」といえますが、A、B、C、D、Eの刺激を選り分けられることなく全部ボリュームMAXで感じてしまうのが過敏です。脳の神経伝達に不具合があるのではないかと言われていますが、諸説あるようです。
 想像がつきますでしょうか。90代の私の母は、補聴器をつけると騒音も全部大きく聞こえるから、あまり補聴器をつけたくないのだとよく言っています。そういう感じなのかもしれません。
 こういうドラマを通して、人知れず苦労している人たちについて、せめて理解する姿勢を持つことがとても大事なのだと思うことができました。

ヨーガ3分話

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