呼吸におけるマインドフルネス

一心塾だより 第5号

 瞑想をきちんと習得したいと願う人達が最終的にたどり着く一つの仏教経典があります。「アーナパーナサティ・スッタ」(漢訳名:安那般那念経)です。「マインドフルネス」という言葉を世界に広めたベトナム出身の仏教僧ティク・ナット・ハン師はこれを「呼吸による完全な気づきの経典」と訳し、非常に重視しています。師の著書である『ブッダの<呼吸>の瞑想』(島田啓介訳)から抜粋要約します。

1,長く息を吸いながら、長く息を吸っていることを知る。長く息を吐きながら、長く息を吐いていることを知る。
2,短く息を吸いながら、短く息を吸っていることを知る。短く息を吐きながら、短く息を吐いていることを知る。
3,息を吸いながら、全身に気づく。息を吐きながら、全身に気づく。このように瞑想する。
4,息を吸いながら、全身を静める。息を吐きながら、全身を静める。このように瞑想する。

 呼吸の観察することによって呼吸が心に影響し、心が呼吸に影響することがわかります。そして呼吸への気づきは身体への気づきと同じであることもわかってくるでしょう。次第に身体の活動が静まってきて、呼吸も心も静まってきます。

5,息を吸いながら、喜びを感じる。息を吐きながら、喜びを感じる。このように瞑想する。
6,息を吸いながら、幸福を感じる。息を吐きながら、幸福を感じる。このように瞑想する。
7,息を吸いながら、思いの形成に気づく。息を吐きながら思いの形成に気づく。このように瞑想する。
8,息を吸いながら、思いの形成を静める。息を吐きながら、思いの形成を静める。このように瞑想する。
 
 自分自身の感覚に気づきつつ、喜びと幸福感を育てる瞑想です。感覚はあなた自身です。あなたがその面倒を見てあげなければ、誰が代わってくれるでしょうか。7、8では雑念から生じる感覚に気づくようにすることで、それが静まっていく段階です。

 7、8はこれをセルフ・フォーカシングと言ってもいいかもしれません。この後瞑想の方法について16段まで続き、次第に心身の全てが静まり、活動を止めていきますが、フォーカシングではそこに「表現」という動的な段階がどうしても入ってきます。初期仏教では表現活動について考慮されることはありませんが、大乗仏教では書道や茶道、華道、武道などに影響を与えていることを考えると、表現活動は尊重されているのです。また「菩薩」という人の苦しみに寄り添うことに徹する大乗仏教の修行のありようも、一つの表現活動と言えます。「表現」の段階を経ないと、本格的な静の段階に入ることはないだろうと私は考えています。そのために瞑想とフォーカシングを両方行うことがとても大事であると思うのです。